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映画「すみっこぐらし」について&音楽紹介「冬のこもりうた」

先日、このような映画を観ました。
前々よりTwitterなどで「子供向けではない」「アニメ版ジョーカー」など物騒な評価を目にしてきたので、そういうのが好きな自分としては(映画版クレヨンしんちゃんとか、ワンピース オマツリ男爵と秘密の島とか)ぜひ一度見てみたいとアマゾンプライムで視聴した。
まず率直な感想としては「これはとても良い子供向け映画」である。
しかも、子供向け映画で避けがちなテーマを「すみっこぐらし」という世界観を通してうまーく描いた傑作でした。
以下、映画を見たという前提の重大なネタバレ
まだ見たことない方は、ぜひとも子供と一緒に見て欲しい
「本当にひとりぼっちな存在とは何か?」
映画「すみっこぐらし」のストーリーは他の子供向け映画にも見られるような「迷子の家を主人公たちが一緒に探す」という王道なプロットを基に三幕構成で描いている。
すみっこたちの簡単な説明とひよこ(?)との出会い、冒険の始まり
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世界を巡るすみっこたち、しかし、ひよこ(?)はノートの端の落書きに過ぎなかった
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ひよこ(?)の決断と、すみっこたちの決断
他の子供向け作品では「ひよこは実は醜いアヒルの子でした」で終わる作品が多いのだが、この作品ではその最後の希望さえも奪ってひよこを天涯孤独の存在とした。(のび太の恐竜のピー助やウォーリーでさえ家族や友達がいたのに!)
この世にはひよこ(?)のような子供が沢山いることを忘れてはならない。
そして「すみっこぐらし」という一連のシリーズの根底にあるのは、どこにでもいるような「はみ出し者」が身を寄せ合って楽しく生きるというネガティヴが一周してポジティヴになっているようなテーマである。
映画オリジナルキャラクターというものは少しでも世界観から外れてしまえばすぐに叩かれる対象となってしまうが、このひよこ(?)というキャラはオリキャラでありながら見事に「すみっこぐらし」という世界観に合致した存在ということに気づかされる。
「永遠の別れは本当に悲しいだけのものなのか?」
すみっこたちは自分たちと同じ存在のひよこ(?)を受け入れて一緒に帰ろうと提案する。しかし、二次元のキャラに僕らが直接会いに行けないのと同じように、ひよこ(?)はすみっこたちの世界にはいけないのだ。
その上で、ひよこ(?)はすみっこたちを元の世界に返す為に捨て身の決心をする。ここで視聴者は彼らに課された現実と、自分たちの受ける世界の理不尽さを重ねて子供向け映画なのに涙してしまう。
青年向けの作品でさえ、思い人の為に主人公が現実を捻じ曲げてしまう作品が多いのに。
この作品を観てショックを受けっぱなしの人というのは、ここで思考が停止してしまっている人ばかりなのだろうと思う。
帰ってきたすみっこたち、特にひよこ(?)と仲の良かったペンギン(?)は本の「すみっこ」に描かれている彼を絶対に忘れられないだろう。でも物語はここでは終わらない。
すみっこたちは本の他のページに描かれている物語と同じように、自分たちの手でひよこ(?)のページを完成させる。
僕はこのシーンでカタルシスを得て思わず感動で泣いてしまった(笑)クレヨンしんちゃんぶりである。
そして、エンドクレジットにて彼らによって追加された物語の顛末が流れて幕を閉じる。
この作品はアンチセカイ系と自分は受け取った。
世界の不条理を捻じ曲げることは、よっぽどの力がない限り現実の僕たちには不可能である。しかし、この物語はその不条理によって引き裂かれても他者と通じ合うことができる力を僕らは確かに持っていることを示唆している。
つまり「さよならだけが人生ならば、人生なんかいりません」ということである。(ちょっと違う?)
この映画を観て泣いてしまう子供も確かにいるだろう、しかし、なぜ悲しいのかと親は子に質問するべきである。そして現実について一緒に語り合い、これからその子が受けるであろう世界の理不尽さについて、どうするべきか親は考えるべきである。
、、、とかなんとかそれっぽいことを書いてみたが、それより何より、この映画のことを調べて一番驚いたのが監督が
「弱酸性ミリオンアーサー」「お前はまだグンマを知らない」のまんきゅう氏、そしてヨーロッパ企画の角田貴志氏であるということ。
「ジョーカー」といい、ギャグを描く人は本当に不条理を描くのも上手い。
エンディングを優しく彩るのは原田知世女史の「冬のこもりうた」である。(上の写真はそれが収録されているアルバムのジャケットである)
この歌で注目すべき点は「万華鏡は回るよ僕らを乗せて」という歌詞である。
万華鏡は常に変化し続けるおもちゃであり、二度と同じ模様を見せることはない。その上に乗っているというのは、、、つまり上記したことである。
それと「ポッケの中のチョコレート、一つ君にあげよう」であったり「ポッケの中の思い出、一つ君にあげよう」といった映画の趣旨を見事に表現した言葉が素晴らしい。自分はこの歌を聞いて「風といっしょに」を思い出した。
ちょっと専門的なことを書くとすると、Bメロの「月明かり」や「渡り鳥」といった三拍子の上の四連符がいいアクセントになっていて音楽的にも聞いていて心地よい。
映画「すみっこぐらし」は世間に囁かれるようなダークな作品ではない。実に良質な「子供向け映画」である。
2020年5月31日

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